ESSAY

 第2回 佳作

最高のプレゼント

内山 弘紀 様 (山梨県)


 イブだからといって、外で馬鹿騒ぎする歳はとうに過ぎた。
会社の雑用を適当に切り上げ早めにマンションに戻ると自宅はロックされており、妻は不在のようだ。
肩すかしを受けた気分でドアを開けると封筒がおいてある。胸騒ぎを感じつつ、封を開けてみると 「メリークリスマス。毎日御疲れさま。来春はお父さんは定年、ミッチャンは卒業ですね」
手紙はさらに続く
 「ちょっと近くの奥さんとお話しています。びっくりさせてあげるから、すぐ寝室にいってベッドに横になり、私の携帯に電話をちょうだい。いいことがはじまるわよ。必ず寝室から電話すること。待っていますからね」
 「馬鹿いってんじゃないよ」と思いつつも、いわれた通り、ベッドに横たわり電話を取る。
 「何だよ、いったい?」
 「メリークリスマス。さて今日は何曜日?」
 「水曜日に決まってるじゃないか」
 「あれ、本当? カレンダーをみてよ」
 寝室のカレンダーに目をやると、今日の日付の所に、メモ用紙がとめてある。
もぎ取って、電話口に戻れば、もう電話は切れており、メモには、こう書いてある。
ヒゲの老人はパイプをくわえ、トイレの中
 「何だろう、これはいったい…」
しばし、考え込んだが、突然立ち上がり、トイレに駆け込んだ。
トイレの中の棚に、かつてドイツで買った、木彫り人形がある。
まさにそれがパイプをくわえた老人だったのだ。木彫り人形を持ち上げると、また紙切れが
落ちても痛くないビロードのヘルメット
 「ああ、玄関にある乗馬用の帽子だ」
玄関の帽子の下には、また次の指示が
朝日を背にピエロは腕を組み
 「ただいまー。あれ、お父さん何してるの?」
短大生の娘が帰って来て、数枚のメモを見るや瞬時にして、すべての状況を理解した。
 「ほら、食堂の窓にあるピエロのお人形よ」
娘は私の腕をつかみ、食堂へ引き摺っていく。
ピエロの下には
時計を浮かべ、ポップスを聞く
 「風呂場のラジオ時計だあっ!」
同時に叫びドタバタと浴室になだれ込む。
お帰りなさいとミスタージャイアンツ
 とうとう、マンション一階の管理室にいく事になってしまった。巨人軍長島元監督によく似た管理人は、ニコニコとメモを取りだし
 「これ、何のことでしょうねえ?」
黄金の馬は優しく微笑む
 大いそぎで部屋に戻れば、もう息もハアハア。金色の馬の置物に隠された紙には
これで最後です。押入れの旅行バッグをあけなさい。ロックの数字は変えてあります。
 旅行バッグは、なるほどカギのナンバーが変わっている。一瞬、閃めきを感じた私は、イヴの日付1224に合わせると、一発で開いた。「オーッ!!」歓声を揚げながら父親と娘は思わず生まれて初めての、握手を交わしていた。中にはリボンを掛けた包みとカード。
 「おめでとう。やっと見付けたわね。これからも仲良く暮らして行きましょう。宜しくね」
 その夜の食卓は、嬌声をあげて駆け回った興奮がそのまま持ち越され、大いに盛り上がった。
振り回された私はもちろん、前日から内緒の仕掛けに苦労した妻も、
家族との触れ合いを感じた娘も、このイヴの顛末を生涯最良の思い出として、心に刻みつけた。
十年以上たった今でも、その光景は、すべてまざまざと浮かぶのだが、肝心の贈物の中身がなんだったのかは、三人とも全く覚えていない。

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