ESSAY

 第2回 優秀賞

満月に導かれて

金山 優美 様 (東京都)


 六年前、私は初めての出産を控えていた。
 十二月というのはただでさえ慌ただしいのに、出産予定日は、大みそかであった。
臨月を迎えると、私たち夫婦は、いつ生まれるかということばかり話題にしていた。
 そんな折、友人から「満月の日には出産が多い」という話を聞いた。
そう言えば満月の夜、ウミガメやサンゴが産卵する映像をテレビで見たような気がして、私はさっそく月の暦を調べてみた。
すると予定日に最も近い満月は、十二月二五日のクリスマスだった。
(でも初産は予定日より遅れることが多いって、産科の先生が言っていたっけ……)
 クリスマスだと予定日より一週間も早い。それで私は、まあ二五日ということはないだろう、とたかをくくっていた。
 しかしイブの夜のこと、私はいつものように床についたのだが、夜ふけすぎ、腹部の鈍い痛みで目を覚ました。我慢していると一旦は治まるが、やがてまた痛みだす。陣痛が始まったのだった。
間隔を計ると、すでに十五分間隔だ。私はあわてて入院の準備をした。
 病院に向かう前に、私はふと思いついて、ベランダの窓を開けてみた。
本当に満月かどうか、確かめたかったからだ。見上げた西の空には、見事な満月が輝いていた。
私は、よし、と気合を入れると、病院へ向かった。
 そして陣痛開始から六時間後、クリスマスの朝に、私は男の子を出産した。
担当の助産婦さんが、初産にしては珍しい、と驚くほどの安産だった。
満月が手伝ってくれたからかな、と私は夫と笑いあった。宇宙と私のいのちとが、何らかの形でつながっているようで、私はとても嬉しかった。
 出産が満月と重なったことは、単なる偶然だったかもしれない。
けれど私は、自然な生き方を忘れたような人間でも、やはりどこかで、
宇宙とリズムを共有しているのだと信じたかった。こんなちっぽけな自分のいのちも、宇宙のはてしない広がりに包まれ、守られていると思うと、何だか力づけられる気がした。
 やがて沐浴を終えた息子が、私のもとへ連れられてきた。生まれたての、まだ真っ赤な赤ん坊。
小さな手に指で触れたら、彼はぎゅっと握り返してくれた。私は、息子につぶやいた。
 「私たちのところへ来てくれて、ありがとう」
 私たち夫婦に出会うために、この子はどんなめぐり合わせを経て、やってきたのだろう。
 その道のりは、偶然の積み重ねなのか、あるいは運命なのか、私にはわからない。
けれど、この子がこうしてここにいることは、全てひっくるめて、宇宙に流れる大きなリズムが、導いてくれたことのように思えた。
(満月と出産が重なったように、私たち夫婦の人生とこの子の人生が、今日重なったんだ)
 それ以来、クリスマスは私たち家族にとって、特に大切な日になった。
あの日から、まもなく六年。息子の六歳の誕生日も、もうじきである。

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