ESSAY

 第2回 優秀賞

彼女からの贈り物

石井 清香 様 (神奈川県)


 「お客様、申し訳ございません。あいにく、午前中に売れてしまいまして…」
髪の毛をきっちりシニヨンにまとめた女性は、すまなさそうに頭を下げた。わたしの脳の内側で、突然ジングルベルの音楽が、シャンシャンと鳴り始めた。なんでわざわざ、今日の午前中にマグカップなんか買っていくのよ。あなたは、ほんの気まぐれで選んだのでしょうけど、わたしたちにとっては、一週間も前に目をつけた大切な物だったのに!
 何の罪もない、見知らぬ先客に舌打ちしても仕方ないことはわかっている。
しかし、ひと目見た瞬間、佐和子とわたしの両方が「いいね」と口に出した、愛すべきカップだった。普段使うには少し高価だったが、手作りのコロンとした形は、しっくり馴染んで温かかった。
ペアなのに、微妙に形や模様が違うのもいい味だ。ドイツの外資系保険会社に勤め、五年ぶりに帰省した佐和子に、わたしからのクリスマスの贈り物として、ドイツに持っていってもらいたかった。しかも、佐和子とわたしで一つずつ。 ”お揃い“というキュンとする響き。
わたしたちは、少女の頃から ”お揃い“ が好きだった。なのに…。
 もう時間がない。三十分後にはディナーが始まる。そして、明日にはもう、佐和子はドイツへ向かう飛行機の中だ。脳の内側で、いっそう鈴の音が高まる。
その時だ。目の前のシニヨンの女性が、おずおずと言った。
 「お客様、実はまだお店に出してないのですが、同じ作家の物が入っておりまして。 もしよかったら、ご覧になりますか?」
控え目な口調に、なんとなく頷いてしまった。
 ほどなく、スタッフ専用のドアから、二十センチほどの二つの平たい包みと一緒に、シニヨンさんが戻ってきた。そして、薄紙を開いて、そっと中身を取り出した。
 ほっこりとした、ややいびつな丸い土物の皿。マグカップと同じ淡いヒスイ色の釉薬がかかっていた。
ちょんとついた赤と黄色の丸い模様が、優しい温もりを放っていた。
 「わあ、いいですね」
脳の内側で響いていた鈴の音が止まった。一つずつ贈り物用に、とだけ伝えると、彼女はお店の地紋が入った藍色の包装紙に、片方は緑、もう片方は赤のリボンを結んでくれた。  シャンパンのあと、前菜も終わろうとする頃、わたしは「そろそろかな」と考えていた。
すると、佐和子がテーブルの前に四角い包みを二つ置いた。
藍色の包装紙に、片方は緑、もう片方は赤のリボン。
 シニヨンさんは、一週間前のわたしたちを覚えていたのだろうか。
そして、今日誰の手に渡るのかを察して、わたしにお皿を見せようと思ったのだろうか。
余分なことは一言も口にせず。
 ひらひらと手の中でほどけるリボンが、「メリークリスマス」とささやいていた。

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