ESSAY

 第2回 大賞

鏡文字の手紙

佐藤 洋子 様 (岩手県)


 そっと襖を開けて様子を窺った。「サンタさんが来るまで起きてる」と言い張っていた幼稚園児の息子も、三才下の娘も、小さなケーキで祝ったさっきまでの騒ぎに疲れて眠りこんでいる。
夫と二人で足音を忍ばせ、用意しておいたプレゼントを置こうとして、息子の枕元にある折り畳まれた白い紙に気がついた。
明かりのある隣室に引き返して広げて見ると、画用紙にクレヨンで書かれた、
サンタさんへの手紙だった。
文字を覚え始めたばかりの長男だが、いつのまに書いたのだろう。「サンタのおじさんへ」で始まるその手紙は、自分には合体するロボットを、そして妹にはぬいぐるみを頼んでいた。
ところどころに交じっている鏡文字は、息子が一人で一生懸命に書いた証しだった。
 「こんな手紙を書けるようになったんだな」と夫が呟いた。私は息子の中に、幼い妹を思いやる気持ちが育っていることが嬉しかった。妹が生まれてしばらくは、独り占めできていた母親を分かち合うことに、抵抗を示していたからだ。
 「しかし、困ったな」と夫が言った。息子の希望の品とは違った物を用意していたからだ。
息子が欲しがっている物を知らなかったわけではなかったのだが、まだ若かった夫一人の給料でやり繰りしていた当時の私達には、それは少し高価すぎる玩具だった。
 「サンタさんは、なにが欲しいか分からなかったから、自分が選んだ物をプレゼントしてくれたんだね」と言うつもりだったのだが、こんな手紙があったのでは、その言い訳は通らない。
 「おねがいされたものとはちがうけれど、これもおもしろいよ。サンタのおじさんより」
プレゼントの上に、そんなひらがなだけの返事を載せてから、私達はしばらく黙って、仄明かりの中の二人の寝顔を見つめていた。
 「サンタさんからお返事もらった!」
翌朝、息子は大はしゃぎで起きてきた。
 「えーっ。お手紙書いたの?」
驚いてみせると、息子は得意そうに大きくうなずいて、にこにこしながら言った。
 「ぼくね、サンタさんにロボットをくださいって頼んだの。でもパズルも大好きだもん」
プレゼントをもらう立場だったクリスマス。夫と二人だけで過ごしたクリスマス。
そして成長する子供たちと過ごしたクリスマス。たくさんのクリスマスの中で、狭い借家住まいだった、もう二十年以上も前のあの夜のクリスマスが、私にとっては一番鮮明だ。
 私は今でも、思い出箱のどこかにしまってあるはずの、鏡文字の交じった息子の手紙と、静かな寝息をたてて眠っていたあの時の子供達の寝顔を、鮮やかに思い出すことができる。
そしてその寝顔を見つめているうちに、いつしか敬虔な気持ちになり、なにか大いなるものへ、切に祈っていた自分のことも。
 北国の冬は厳しいけれど、あの年のクリスマスイブは不思議に風のない静かな夜だった。

ESSAY TOP

このページのトップへ