ESSAY

 第2回 佳作

いつか、その日がくるまで

嘉瀬 陽介 様 (神奈川県)


 ボクには、どうしても買いたいものがあった。
昨年の十二月二十五日は、息子の二回目のクリスマス。
そのイブの夜、ボクは胸を弾ませながら近所のスーパーに走った。
薄暗くなった町にオレンジ色の灯りが映え、空気は刺すように冷たい。
スーパーには賑やかなクリスマスソングが響き、一番目立つエントランスの真正面には
大きなクリスマスケーキが重ねられていた。
 「よし! 例の物を買ったらケーキも買って帰ろう」
ボクは店の奥に向かった。
陳列棚にはたくさんの長靴が並んでいた。
大きいものや小さいもの。赤いものや青いものや黄色いもの。
キャラクターのイラストが描かれたものやサンタの顔が描かれたもの。
ボクは、大きくもなく小さくもない、ごく普通の長靴を購入して家に帰った。
 前年のクリスマス、
 「雄馬(息子の名前)に長靴のお菓子を買ってあげようかな」
ボクは提案した。だが、その議案は、
 「まだ食べられないんだから買わなくていいの!」
と、我が家の大蔵大臣である妻によって否決されていた。
 それ以来、次のクリスマスこそ絶対に長靴を買ってあげよう。そう誓っていたボク。
子供の頃、イブになると必ず靴下を枕元につるして眠りについた。
そして、翌朝になると長靴のお菓子がそこに置かれていた。
 「サンタさんだ! サンタさんが来たぞ!」
しかし、小学生になった頃には、サンタなどこの世にいないことを知ってしまった。
子供にとってクリスマスは特別な日。子どもたちの多くは、白い雪に覆われた遠い国に思いを馳せる。
せめて子どものときくらい、夢をたくさん見てもらいたい。
 嬉しそうにケーキを頬張る息子。口の周りはクリームだらけだ。はしゃぎすぎたせいか、
その日はあっという間に眠りについてしまった。
ボクは息を潜めて息子の枕元に近づき、長靴のお菓子を置いた。
楽しい夢でも見ているのだろう。その表情はどこか笑っているようだった。
 この時、息子はまだ一歳十ヶ月。サンタなど知る由もないし、枕元に長靴のお菓子が
置かれている理由だってわからないだろう。「そんな行為は親の自己満足」と言われても
しかたがない。
でも、ボクにとって、息子にとって、もちろん妻にとって、これから数年のクリスマスは特別なのだ。
恋人たちが大切な人とクリスマスを過ごすように、ボクたちは息子と楽しいクリスマスを
過ごしたいと思っている。
 そう、いつの日か、
 「オレ、クリスマス・イブは外で飯を食ってくるから」と、言われるまでは……。

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