ESSAY

 第2回 佳作

ハートのムーンストーン

山口 貴子 様 (静岡県)


手を握られた瞬間、恋の扉を開けてしまった。クリスマスなんて、どうでもよかったのに……。
遠く離れた、学生の恋だった。東京まで同じ新幹線で通う友人が、私を飲み会に誘ってくれた事から始まった。三つ年上で一人暮しの彼は、皆が眠っている間、私に色々な話をしてくれた。
まるで、ずっと前から出逢っていたかのように、私は、彼の世界に浸っていた。
それから一週間後、ソースを片手に彼の部屋を訪れた。眠る前に、ギターを弾いてくれる彼を、少しずつ愛し始めていた。しかし、それが真実の愛であるのか不安になった私は、友人に相談すると、ちゃんと聞いた方がいいとの返答。
やはり女性は、足らない言葉が欲しいもの。
思いを伝えて満足だったが、勇気を出した期待は、別れ話に変わっていた。
私は気丈に振る舞い、今なら忘れられる、傷口が浅くてよかったと、笑顔を絶やさなかった。
そんな私を見て友人は、彼の本音を教えてくれたのだ。
大好きだった前の彼女に似ているから辛いんだと。
そして、左手にしていたミサンガと人指し指のリングは、その彼女からもらったものだと。
それをまだはずせずにいる自分では、ダメなんだと。
やはり、忘れることは、容易ではなかった。もちろん、トモダチになることも。
そして、まさか、再会するなんて……。
その日は、友人に誘われて店に着くと、友人の彼氏が、あの彼(ヒト)を連れて来ていた。
トモダチだから大丈夫だと言う心底には、手を伸ばせば届くのに…と、彼ばかりを見つめていた。
そして、ふと気付くと、空っぽになった左手が目に入った。
そして、以前と変わらない彼の笑顔は、涙でにじんでよく見えなくなった。
冷たい手をコートのポケットの中でつないで、大きな袋を抱えて帰った。
袋の中には、内緒で編んだ真っ白い大きなセーター。それをうれしそうに着た彼と、まるでチークを踊るように、せまい部屋の中で静かな時間を過ごしていた。
その年の初夏に出会い、いろんな思いを抱えてやってきたけれど、こんなに素敵な日はなかった。
「明日、指輪を買いに行こう。毎日つけていられるように、派手な色じゃない方がいいな……。 今思えば、夏に東京から京都まで、自転車で行っただろ? 山とか暑さで辛い時、お前が支えになってたんだ」
めったにバイトをしないこの彼(ヒト)が、私に内緒でバイトをしたそのお金で、明日、指輪を買ってくれるんだって―。
いつもはつけないキーホルダーを、京都でおそろいにしてきた竜馬くんに、私は笑顔を見せていた。
ジングル・ベルが流れる中で……。

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