ESSAY

 第3回 佳作

マリアさまのお引越し

森谷 昌枝 様 (東京都)


 手を真っ黒にして新聞紙に割れ物を包んでいく。東京で一人暮らしの私は、有給休暇を取り実家に居た。わが家は市の区画整理のため、引越しを余儀なくされたのだ。
 おそらく、新しい家の設計図に私の部屋はないだろう。何を捨て、何を残せばよいのか。 宝物だったバービー、賞を取れなかった花火大会の絵、小さなバレエシューズ。感慨にふけり、私の仕事は一向にはかどらない。
 天袋の奥から、古新聞に包まれた小さな塊を見つけた。中を開くと、マリア様の像であった。ブルーの陶器製で、幼稚園の卒園記念にいただいたものだ。
 色白で美人のユキ先生はお元気かしら?また思い出の世界。「あれっ?」中が空洞になった像の穴を覗くと、なにかいっぱい詰まっている。中身をつまみ出してみると、小さく折りたたまれた紙切れがいくつもでてきた。その一つを開いて見る。
「パパとママがいつもなかよしでいますように」また一つ、また一つと開いていくと、「ママがいつもえがおでいますように」「パパにおこられませんように」などと書いてある。
 思えば、やんちゃ盛りの私達三人兄弟はいつも両親をカリカリさせていた。ある日、私のことで母が父に叱られた。夜中にふと目が覚めると、机に伏し、母がひっそり泣いていた。罪悪感というものを初めて覚えた。
 なにも出来ない小さな私。そして私はマリア様に願い事をたくした。「夕方までには荷物をだすからね」母の声で我にかえる。「はーい」と言って私は立ち上がり、思い切り伸びをした。
 父が母の肩をたたいてやっている。母の嬉しそうな笑顔はマリア様のようだった。これから始まる二人だけの生活。「マリア様。今までありがとう」私はそう呟き、像を再び新聞紙にくるんだ。

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