ESSAY

 第4回 優秀賞

絶叫マシン

竹内 祐司 様 (愛知県)


 「なんだかあいつ、最近、変わったよなあ。前はあんな子じゃなかったのに」
 私は妻にそう言いながらため息をついた。
あいつとは、十二歳の娘のことである。妻はそんな私を見てくすっと笑いながら、
「変わってないわよ。全然」と言った。妻はきっと楽天的なのだ。
 ちょっと前まで『おかえり!』と大声で叫びながら、とびついてきた娘。
ここ数ヵ月、仕事が忙しく、話したり、出かけたりできなかった。その間に、何かあったんだ。
そうじゃなきゃ、あんなにそっけなくなるわけはない。私はそう思った。
晩ご飯。私は妻と娘に言った。
「今度の夏休み、遊園地に行くか?」
「ええ!?遊園地?やったああ!ありがとう。お父さん」
 そんな答えを期待して言ったのに、娘は「行けば?」と言った。
行けば?って、おいおい。行きたくないのか。娘は黙って御飯を食べていた。
 夏休みになり、行きたくない、と言う娘を無理やり連れて、遊園地に出かけた。遊園地は、家族連れで大混雑だった。
どの子もみんな楽しそうに父親にくっついている。前は、娘もそうだったのに。一体どうしたんだ。
 その時「きゃああ!」という絶叫が聞こえた。
さかさになったり、ねじれたりする通称“絶叫ジェットコースター”だ。
妻が娘に言った。
「あんた、乗れば?前から乗りたいって言ってたじゃん。でも身長制限があるからダメだって。今ならいいんじゃないの?」
娘は「一人じゃこわい」という。
妻も同様「私は嫌!」と言い、
「あんた、いっしょに乗ってあげてよ」と言った。
冗談じゃない。私は梅干しと、らっきょの次に、ジェットコースターが嫌いだ。
娘はそんな私の性格を知っていて、“ふん!”という顔。
何かがはじけた。「よし!乗るぞ」というわけで、二人は絶叫コースターの長蛇の列に並んだ。
三十分くらい待ったがその間、娘は無言だった。
途中で「こわいんだったらやめてもいいんだぞ」と言ったが、「別に…」だった。
本当は、やめると言ってほしかった。
私たちの番になった。ブザーが鳴り、ゆっくりと動き出すコースター。
ガクンと振動がして、坂を登り始める。そして頂上に着いた次の瞬間・・・一気に滑り降りた。
「ぎゃあ!」私は叫んだ。目をつぶる。
隣で娘も叫んでいた。かすかに聞こえた。「お父さーん」と。
 コースターから降りた私たち。腰が抜けそうでふらふらだった。
娘は私の腕を放さなかった。その時妻がその写真を撮った。
 娘は今もそっけないが私はそのスナップをながめながら、
娘も大人になっていくんだなと納得している。

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