ESSAY

 第4回 佳作

家族との時間

近藤 滋子 様 (京都府)


 「宝くじが当たった。至急帰れ」
父からのメールは、長野に就職した兄と京都に嫁いだ私に、同時に送信されました。
 すぐに実家に電話をした所、父が出て早口に「とにかく帰れ」とのことでした。
サマージャンボ宝くじの抽選日は、8月12日で、今日は13日だからひょっとして1億、いや3億でも当ったのではないかと、父の電話での話し方から内心期待する想いがふつふつとわき、お盆休みに一人で帰郷することにしました。
 神奈川の実家に着いたのは、もうすっかり夜で、兄もどうやら私と同じ経路で、一人で実家に帰って来た様でした。
 こんな風に家族4人で顔を合わせるのは、結婚してから何年ぶりだろうと、
不思議な気がしました。
さてさて、本題の宝くじですが、父は堂々と金額を発表しました。
「10万当った!!」
「え〜」
と思わず不満の声を出してしまいましたが、父は続けました。
「10万は、この4人家族での最後の思い出に使いたいと思う。
ここで、この家で、4人で暮らした日々をもう一度、最後に思い出してほしかった」
京都の伏見のお酒(私のお土産)にすっかり酔って、父は目に涙を浮かべていました。
 そして、その次の日に、その10万円を使って、一人2万円までの思い出の品を、家族4人で買いに行く事にしました。
まずは、母。今年、普段の6倍にみえる火星を観るための天体望遠鏡、1万9千円ナリ。
 次に私。ロイヤルコペンハーゲンのティーカップを、夫とゆっくりティータイムを過ごすために、2客セットで、1万8千円ナリ。
 兄は、会社でのストレスが原因か、不眠症らしく、自分に合うオリジナル枕を選択しました。2万1千円ナリ。
 そして、父は何を買ったのか、といいますと、沢山のペンキと刷毛、ニスを買いました。
「これで、明日、家の壁を皆で塗る」
と言って、その他にもローラー型のペンキ塗りなどをそろえました。
次の日は、家族4人ジャージ姿で、部屋中の壁を白いペンキで塗ったり、家具をみがいて、ニスを塗る作業をしました。
4人でやれば、早いもので、1日ですっかりきれいな家に変わりました。
残り1万は、近くの温泉に日帰りで行き、10万円は全てなくなりました。
 このお盆は、こんな風にして、父の希望通りに過ごし、嵐のように終わってしまいましたが、
これで、本当に最後の4人家族水いらずになるだろうなと、改めて感じ、
素敵な思い出の夏だったと、コペンハーゲンのティーカップで、
ティータイムを夫と楽しみながら、実感したのでした。

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