ESSAY

 第4回 佳作

父からの贈りもの

山城 久美子 様 (兵庫県)


 この夏、しばらく会っていなかった両親が、浜松から神戸へやって来た。
住吉駅の改札に姿を現した二人は、案外溌剌(はつらつ)として、久しぶりに娘に会う嬉しさを
顔中に出していた。その夜は、六甲の夜景の見える私たち夫婦のマンションで、
私の手料理をごちそうした。
 父は料理に箸をつける度に、
「これ本当に久美が作ったの」
と聞きながら、いつもよりたくさん食べてくれた。
そういえば私は、大学入学以来、家を離れてしまっているので、
父が私の手料理をまともに食べたのって、これが初めてなんだ、と気が付いた。
実は本格的な和食の本を見て、前の日からじっくり仕込んでいたので、おいしそうに食べて
くれた父を見てほっとした。
娘の料理を褒める父の隣で、母は少し焼き餅を焼いていた。
 次の日、有馬温泉へ向かう途中、父の希望で、ロープウェイのゴンドラに乗り六甲山頂へ行った。
母は最近、キャンディーズのランちゃんに似ているとよく言われるらしいけど、確かにそうかも。
だいぶ痩せてしまったけど、少年ぽい父のジーンズ姿は前から好きなんだよね。
二人は、37年前の新婚旅行で来た有馬温泉の思い出話で盛り上がり、
写真を撮り合いっこしていた。それは、羨ましいくらいだった。
多分、新婚旅行の時よりも今回の方が楽しいに違いない、と私はなんとなく思った。
山頂のガラス工芸店で、父はお土産をあれこれ考える母の良い相談相手になっていた。
そして、「久美久美、これ、家のミーちゃんにそっくりだね」
と私を呼び、皺の中に子供みたいな笑顔を浮かべて、そのガラス細工の猫を買ってくれた。
 昼食のうどんを食べた後も、父は周りの人が持っているソフトクリームに目をつけ、
私たちを振り返りもせず、また子供みたいに小走りで買いに行ってしまった。
さらにその後父は、1km程先の植物園の看板を見付け、
「ここにも行ってみようよ」と言ったかと思うと、もう歩き出していた。
以前は趣味の登山で鍛えていた父も、照り返しで熱い道路には懲りたようだった。
それでも植物園の木陰に入ると早速、お気に入りのデジカメで花の写真を撮り始めた。
花の名前に疎い父がトンチンカンな名前を言う度に、
母に訂正されるのを、私と主人は面白がって見ていた。
 旅館で、父は案の定、熱を出して先に休んでしまった。
母は父をたくさん歩かせたことを後悔したけれど、
「お父さんは、頑張っていい思い出を作ってくれたんだよ」と、私は母を宥(なだ)めた。
余命数ヵ月と言われている父は、この夏、これ以上にない素敵な思い出を私達に残してくれた。

ESSAY TOP

このページのトップへ