ESSAY

第5回 佳作

祖母との写真

伊藤 温子 様 (東京都)


 半畳ほどの囲炉裏を畳で塞いだ上に、祖母の布団は敷かれていた。
黒光りするごつごつした柱には、歌の文句のように動かなくなった古時計が下がり、
窓からの光で部屋の中はぼんやり明るい。
「今年の春はおがしいなァ。ちっとも暖がくなんね」
 五月下旬の雪国としては珍しい、汗ばむほどの陽気だというのに、
祖母はそんなことを呟いていた。
身体が熱を作らなくなっているのだろう。私はしばらく、祖母の身体をさすってみた。
 「坊は来年、小学校だっけが?ランドセル買ってやんねえとな」
「もう一年先だよ。その時にお願いね」
 さっきから三度目の同じ会話を、耳の遠い祖母にも聞こえるよう
大きな声で繰り返しながら、私は祖母をさすり続けた。
「そうだ、お婆ちゃん、なつと一緒に写真撮らせて」
 田舎の広い家で、四歳の息子が駆けずりまわっている。
私はようやく彼をつかまえ、彼の曾お婆ちゃんと一緒の一枚を撮った。
カメラに興味津々な息子は、「つぎはおれがとってあげるよ」と言ってきかない。
私が仕事で使っている、70ミリのズームレンズにストロボまでつけたずしんと重たいカメラを、四歳児は見よう見真似でそれなりに構えてみせた。一枚くらい、失敗してもいいだろう。
 祖母の布団に並んで座り、私は祖母にできるだけ顔をくっつけた。
こうすると、フレームいっぱいに顔を入れた、見栄えのいい写真になる。
小さく丸まった背中をぎゅっと抱き寄せて、
そういえば祖母と二人きりで写真を撮るなんて初めてだなあと思った。
 「はい、とりまーす」
ストロボが光った。
 二週間後、実家からが訃報届いた。
 祖母の最後の一枚は、私と並んで曾孫にシャッターを押してもらった、あの一枚だった。
「なんだ、お母さん、よぼよぼッて死にそうな顔で写ってらなァ」
写真を手にした叔父が、半泣きの笑顔で言った。
 祖母の枕の下からは、渡し忘れた、曾孫のランドセル代が出てきたという。

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