ESSAY

第5回 佳作

173日

佐々木 香 様 (宮城県)


 173日間の長かった入院生活が終わる。
 生まれてすぐ、保育器に入った、この子は、まだ自分の力で呼吸することが出来なかった。
私は、この子を抱くこともできず、保育器越しにこの子を見守っていた。
 保育器の窓から手を入れ、そっと、頭をなでると、びっくりしたのか、まぶたをピクピクさせ、目をあけようとした。でも、まだ目はあけられなかった。
 パパは、早く目をあけてもらいたくて、無理にまぶたをもちあげようとした。
いつもは、腫れものに触るように、撫でているのに。
そこまでして、目をあけてもらいたかったけれど、この子は、目をあけるようになっても、面会中はほとんど起きてくれなかった。
 初めて抱っこしたとき、呼吸器を揺らさないように、慎重に抱いた。
相変わらず寝ていたけれど、「んんー」と、かすかに声が聞こえた。
初めて、この子の声を聞くことができた。
大きな声で泣けるようになったのは、それから、しばらくたってからだった。
保育器からでてからは、今まで泣けなかった分まで、大きな声で泣いた。
病気が見つかる度、心配させられたけど、頑張って乗り越えてくれて、やっと退院許可がでた。
退院したら、今までしてあげられなかった分まで、たくさん抱っこしてあげたい。
抱きぐせがついたって、構わない。この子は長い間、頑張ったのだから、たくさん誉めてあげたい。
 小さな体で、「生きたい、生きたい」と頑張った。
その頑張りに、たくさんの人たちが応えてくれた。
 入院中はつらいこと、うれしいことがあり、助けてくれた人たちに、常に感謝していた。
この時間は、退院しても忘れることのできない、この子の出発点。

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