ESSAY

第5回 佳作

わが家の試乗会

森永 政雄 様 (愛知県)


 私には二人の息子がいる。長男は結婚をして別居しているが、
二男はまだ大学院生で、噛り甲斐のない痩せた親の脛をかじっている。
 かじりついでに車が欲しいと二男がいいだした。
それもスポーツカーが欲しいという。
どんな車かと思い話を聞いてみると、二男が欲しい車は、座席が二つしかなく、
運転する者が一つの座席を占めると後は一人しか乗れない、という車で、
屋根が閉じたり開いたりする車だとのことである。
 私が「ダメダメ。そんなわけのわからん車は」と言って反対した。
すると家内が「いいじゃありませんか。そんな車は若いときにしか乗れないんですから」といって二男の味方をした。
 長男も「横に彼女を乗せるだけだから、座席は2つあればいいんだもんな」といって笑っている。
嫁が「私達も子供を産む前に、スポーツカーに乗りたかったわね」といって、それとなく二男の味方をする。
 家内が「反対はお父さんの一票だけですから、賛成多数でスポーツカー購入は決定いたしました」といった。
 数日して、問題のスポーツカーがわが家にやってきた。
成程、若者向きの、いかにも格好いい車である。
 長男が「試乗会をはじめろよ」といったら、
二男が「うん。それでは先ずお母さんを乗せる」といった。
家内が「お父さんが先でしょ」といったら、
二男は「僕のスポーツカー購入をまっさきに賛成してくれたのは、お母さんですからね」といった。
「そんなこと言わないの。わが家の大黒柱は、なんといってもお父さんですからね。さあ、あなた」と家内が言って私の背中を押したので、しぶしぶながらという感じで、内心ムカツキながら乗った。
 二男は、そこらをひと廻りしてくれたが、やはり乗り心地がまるでちがう。
「いい車だな」といったら、「ね。そうでしょ。買って良かったと思うでしょう。また乗せますからね」といって二男はニッコリと笑った。
つぎに家内が乗った。
「こんな婆さんの恋人で悪いわね」といいながら二男の横の席に座った。
二人はじっくりと乗り心地を楽しんでもどってきた。
「なんだ。俺のときとちがって大分、乗り廻したじゃないか」と私が文句をいったら、
二男は「反対票と賛成票のちがいですよ」といったので、皆笑った。
 続いて、長男、嫁の順で乗ったが、二男が「僕も義姉さんのような恋人をみつけるとするかな」といったら、長男が「やめとけ、やめとけ、尻に敷かれるぞ」といったので、皆で大笑いした。
どうも、わが家系は嫁が実権を握るようになっているようだ。
 試乗会がおわったあと、『スポーツカー購入祝賀会』を開いた。
二男は「お母さんだったら僕、いつでも乗せるからね」といった。
わが家の本当の実力者を知っているようだ。

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